銀行のための戦略的ワークフォース計画
計画から実行へ:ワークフォース計画遂行のためのよりスマートなアプローチをご紹介します。
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策定した年度予算に対して定期的に業績を明らかにし、その年度の計画との差を検証することは多くの企業が行っています。しかし、多くの企業は策定した年度予算を固定して運用していることから、経営環境が大きく変化すると予算と現実の乖離が大きくなって、予算策定までに膨大なコストをかけたにもかかわらず当初の計画が無意味なものになる問題が生じています。
経営環境が不透明で不確実な時代においては、1年間の予算計画を立て、それを固定して運用するのではなく、予算をフレキシブルに見直すローリングフォーキャストを用いると効果的な経営を実現できます。そこで、経営予測を常に見直し、計画とその実現を可能にするローリングフォーキャストによる予算策定手法とメリットなどについて紹介します。不確実で変動の可能性の高い経営環境下では、よりヒト・モノ・カネのリソースを現実に合わせて最も効率的・効果的に生かせる計画を立てて運用することが重要です。
ローリングフォーキャストとは、「過去のデータから業績を予測(フォーキャスト)して策定した予算を固定化して運用しないで、経営環境(市場、顧客、競合など)の変化を最新のデータからフレキシブルに予測を見直す(ローリング)ことで経営環境に合うように事業計画・予算の見直しを素早く行い、実情に合った計画で予算の達成率を高める手法」のことです。
ローリングフォーキャストが重要な理由は、現在の経営環境の変化が激しく、速く、不確実で不透明なため、過去のデータからだけでは予測が正確にできないからです。そのため、常に最新の実績データを活用して予測を見直していく必要があります。年度が始まる前に策定した予算を固定したまま運用すると、売上が計画に届かない場合、経営環境が変化して売上予算の達成が厳しくても売上を上げるための追加経費を投入する意思決定がなされ、その経費が無駄になる可能性があります。しかし、経営環境について見直しが迅速、正確に行われていれば、売上を上げられる可能性の高い事業分野に追加経費を投入することで、全社として予算計画を達成できる可能性が高まります。
現在の経営環境では、期首に策定した予算は事業年度のスタートとともに急速に陳腐化していきます。いくら、月次や連結ベースでその差異を時間とコストをかけて分析したり予実管理を行ったりしても、それは過去の予算と実績の比較・分析にすぎません。そこから「将来どうなるか」「将来どうすべきか」の正確で具体的な予測を得ることは困難です。もちろん、予算と実績が乖離したときにその差異を埋める努力は重要ですが、より重要なことは、現時点から将来に向けた新たな予測によって立案した計画の推進です。そのためにはローリングフォーキャストによって予測と見直しをしていくことが必要です。
ローリングフォーキャストが企業に求められる背景には、経営環境の変化が従来型の予算策定とそれを固定化して運用することによる弊害を大きくしているからです。
主な弊害として以下が考えられます。
・従来型の予算策定では数ヶ月から半年という長い期間をかけて策定されますが、予算は、対前年比10%増などと明確な根拠もなく数字が計上され、その結果、実績との乖離が大きくなって形骸化しています。
・予算策定のための時間の多くが、現場は達成しやすい目標をいかに困難に見せるか、経営トップはいかに予算額をコミットさせるか、あるいは全社の予算額を事業部門間でどうコミットするかなど調整のための無益な予算ゲームに費やされています。
・予算を固定化することで、予算と実績に乖離が生じたとき、経営環境に対応した対策ではなく予算に執着した対策が立案され、全社最適の予算遂行計画になっていません。
大きく分けると2種類の対策が必要です。ひとつは「予算管理の高度化・迅速化・正確化」、もうひとつは「予算策定の効率化・最適化」です。この2つにより経営環境にできるだけ適合した予算策定を実現し、予算との乖離が生じたら早期に経営環境に適応した効果的な対策を全社最適化の観点から立案して予算計画を修正して実施していくことが可能です。
「予算管理の高度化・迅速化・正確化」には、ローリングフォーキャストの導入・実施、データの迅速な活用による予算と実績の乖離を多次元に分析し対策に反映させること、および対策の効果を高めるための仮説検証フレームワークの整備が必要です。
「予算策定の効率化・最適化」には、現行の予算制度の見直し、IT活用による予算策定プロセスの効率化、およびこれらによって経営環境に適合した予算の策定と運用が必要です。
ローリングフォーキャストを導入するメリットを具体的に紹介します。
不確実性が高く、変化の速い現代の経営環境では、長年にわたって積み上げてきた経営努力が一瞬にして崩壊するリスクがあります。その経営リスクを避けるには変化に対する予測・予見力を高め、変化の対応を迅速にできる経営を進める必要があります。変化への予測・予見を正確にするには、その前に現実の正しい実態の把握を必要とします。ローリングフォーキャストは、最新のデータに基づいて予算計画を見直しするため、実態を把握でき、経営環境の現実の変化をとらえられ、合理的な事業展開を可能にします。結果として、経営リスクの極小化、あらゆる変化に対応できる企業体質を根付かせることが可能です。
予算と実績の差異が生じたとき、従来型の予算計画でも修正が行われます。しかし、多くの場合、過去の実績に基づいて売上・利益の数字を見直すのみにとどまっているのが一般的です。その場合、予算に対して実績が上回ると、必要以上に頑張る必要がないという気持ちが社員に生じます。逆に下回ると予算は最初から無理な目標であったとして諦めの気持ちが起こります。こうして、いずれの場合も本来ならもっと売上・利益を得られるはずが得られないという機会損失が生じます。
一方、ローリングフォーキャストでは、過去の実績から将来を予測して、最善の結果になるように行動計画を見直して、ダイナミックに実行計画を立案して実施する点で従来型の予算計画とは大きく異なります。この結果、予算と実績が乖離しても予算の達成率を向上させられます。
経営環境の変化の大きさや速さは、予算と実績との乖離を生み出しています。変化に迅速に対応して、予算を計画どおりに遂行するには従来型の予算策定方法と、それに基づく予算計画では極めて困難です。企業が持続的に成長をしていくにはリスクに迅速に対応し、経営環境の不確実性に適応していく必要があります。その手段としてローリングフォーキャストは有効です。しかし、フォーキャスティングプロセスには、スピードと高い信頼性、さらに変化する企業戦略に対応できる柔軟性が求められます。そのためには、データから経営環境の変化をスピーディに予測し、直感的な分析ができるツールの活用が必要です。