ZBB(ゼロベース予算)は企業競争力を生み出す予算編成が可能
海外のグローバル企業や日本企業で注目されている「ZBB(Zero Based Budgeting:ゼロベース予算)」とは、過去の予算実績にこだわらずに各部門の事業計画の内容を踏まえて、毎年ゼロベースで予算を策定する手法のことです。
予算作成に手間のかかる反面、非常に大きなコスト削減が可能です。経済の長引く低迷から、利益を上げ、次の成長を目指すために必要な投資の原資を捻出するにはコスト削減が避けられません。また、新型コロナウイルスによる経済に対する影響の長期化、激化する貿易摩擦など世界経済の不透明・不確実な状況下でも企業の持続的な成長を可能にするZBBの必要性が高まっています。そこでZBBの基本的な考え方や従来の予算編成との違い、そのメリットについて紹介します。
ZBBと従来の予算編成との違い
ZBBとは、予算作成にあたって過去の実績にとらわれず、白紙(ゼロベース)の状態で事業計画ごとに必要な予算額を検討し、優先順位をつけて予算を作成することです。これにより、貴重な原資を無駄にせず、優先順位の高い事業に予算を効率的に配分でき、企業の成長、利益の拡大を実現します。
一方、従来の予算作成では、前期の実績に対して売上比、インフレや賃金、その他のコストの上昇率などを考慮して経費予算がほぼ自動的に組まれます。その結果、売上予算に比例して無条件に経費は膨張し、いったん認められた予算額や予算項目が減ることは少なく、経費の節減や合理化は極めて困難です。経営環境の大きな変化に直面したとき、コスト削減に大なたを振るうことは難しく、多くの場合、必要な経費も無駄な経費も一律にカットするという経営手段として好ましくない経費削減策が実施されます。
それに対して、ZBBでは、自動的な上乗せによる予算作成を否定し、これまで気が付かなかった予算上の問題点を明らかにできて、無駄なコストの削減、コスト管理の適正化を実現できます。ただし、経費の節減や合理化には効果的ですが、予算金額の妥当性、予算付与の優先順位の付け方など予算作成にかかわる事務量が大幅に増加する問題があります。
世界最大規模のコンサルティング会社アクセンチュアの報告によると、総支出に占める間接費比率が大きい消費財、サービス、ヘルスケア分野のグローバル企業がZBBを導入したところ、1~1年半の短期間で、一般管理費の10~25%(数百億円規模)の削減に成功。また、同社によると食品・飲料の世界的大手モンデリーズ・インターナショナルや、消費財メーカーのユニリーバなど多くの企業がZBBを導入しているとのことです。
ZBB実施の手順
ZBBは一般的に以下のステップを通じて行われます。なお、ZBBは単なるコスト削減ではなくコストに対する企業体質を変えることも目的のひとつとなるため、CEO(最高経営責任者)もしくはCFO(最高財務責任者)を取り組みの責任者として組織横断で進められ、個別に事業部単位で進められるコスト削減の取り組みとは大きく異なります。
1. 経費の可視化
まず、既存の全間接経費のデータをもとに「誰が」「何に」「どれくらい」「何のために」など経費の明細を明らかにします。例えば、「広告費」でざっくりと処理されていた項目でも、「クリエイターへの支払い」「撮影時に使用した小物の購入費」など、細かいレベルまで可視化します。このプロセスを行うことで、管理会計として分類された経費と実際の経費の実態が大きく異なることが明らかになります。
2. 経費を削減できる可能性の検討
どの経費をどれくらい削減したいか、あるいは削減したくないかを検討します。経営の意思、現場の意見、実行の難易度や効果のトレードオフの勘案、金額の大小、取引先との契約状況など多角的に削減余地・削減不可の経費と項目と金額を算出していきます。なお、現場の意見を聞くことはこの段階から行いますが、現場のアイデアの吸い上げと現場への正しいコスト意識・ZBBの考え方の周知徹底に効果があります。
3. 経費のカテゴリー単位の責任者を設置
経費をカテゴリーにまとめた単位ごとに組織を横断して管理する責任者を設置します。責任者は、経費の分析結果や経費を削減するアイデアを各部門に対して伝え、ZBBによるコスト削減を徹底していく役割を担います。特に、大企業では事業部門ごとに発注先が異なっているケースも多く、カテゴリー全体の経費についての責任者が必要です。
4. 予算案の作成
全体経費からカテゴリー単位の経費に配分し、事業部単位の予算へブレークダウンして予算案を作成します。当然、前年を基準にするのではなく必要とされる適正な経費を予算としてゼロベースで積み上げて予算を立案していきます。多くの場合、積み上がる経費予算は経営側が期待する目標経費を上回ることが多く、部門間交渉による調整が発生します。このとき、この交渉プロセスを論理的に行い、記録し、事後に経費予算の計上の妥当性を検証できるようにしておくことが重要です。日本企業の多くは、予算の作成に多くの時間をかけますが、予算額に論理的な根拠づけが薄く、組織間のパワーバランスや過去の実績などによって明確な根拠もなく決めています。これでは、予算の妥当性の検証がうまくできません。
5. 経費予算施策の実施とモニタリング
作成された経費予算の施策が各部門において実施されます。適切に実施され、期待した成果が上がっているか、月、四半期、半期ごとなど定期的にモニタリングします。その際、指標として適切なマイルストーンとしてKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)やKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)を設定しておいて進捗や結果について確認・評価をします。
ZBB導入の課題と実現の不可欠な条件
ZBBに必要なゼロベースの考え方を採用するうえでの主な課題は、アクセンチュアが2018年におこなった調査によると、「文化的な賛同(67%)」「変更管理(41%)」、および「データの可視性(33%)」です。また、ZBBを導入した企業は、継続的な実行が課題とされ、77%の企業がZBB導入で達成した結果を継続的な改善につなげるためのコントロールとモニタリングに注力しています。
この結果からZBBを実現するために不可欠なことは以下の4点といえます。
- 全社戦略として組織全体での推進
- データの可視化
- 変更管理を容易に実現できるエクセルベースではないソフトウェアの使用
- 企業文化として定着させるための継続的なコントロールとモニタリング
ZBBはコスト削減のみではなく企業に持続的な成長をもたらす
現代の企業の経営環境は不確実性、不透明性が増しており、持続的に成長を続けるのが困難な状況です。このような環境でも生き残り成長を続けるには、前例を踏襲する予算編成プロセスでは無駄な経費も必要な経費もどんぶり勘定で計上されることから無駄な経費の削減が困難です。全社最適の観点からコア業務や成長分野への新規投資にあてるための原資を捻出する必要があります。ZBBを導入することで経費の大幅な削減を実現し、持続的な企業の成長へとつなげられます。
なお、ZBBは、企業の最優先課題として経費削減のみを目的として進めることではありません。削減した経費をより利益率の高い事業活動や将来の投資にあてるなど柔軟かつ合理的なリソースの再配分によって、さらなる成長を加速することが最終的な目的です。そのため、持続的にZBBによる経費管理を行い、競争優位へとつなげていくことが求められ、ZBBによる経費管理を企業文化として全社組織に定着させなければなりません。