統合されたワークフォース計画の実現
採用担当者の適切なレベルの能力を確保し、社内の人材の動きを理解することで、ワークフォース計画がどのようにしてより良い意思決定を促進できるのかご紹介します。
増員を強く求めるビジネス リーダーを前にした会議。そのような会議に参加した経験があるかもしれません。例えば、四半期末までにあと 10 人欲しいのに、まだそれが実現できていないとビジネス リーダーは指摘します。FP&A 部門のデータによれば、人員は 4 人しか増えていません。一方で人事部門は、今月だけで 9 人を採用したと反論します。人員数の違いを照らし合わせていく作業は全員の時間を奪い、生産性もまったくありません。財務、人事、ビジネス チームで同じようなことが起こっていると考えれば、それが企業にとっていかに深刻な問題か分かるでしょう。
こうした食い違いは、なぜ起こるのでしょうか。採用予定人数や、今年の人員数の見通しについて、全員が同じ認識をもつことはなぜ難しいのでしょう。それは、人員目標だけでは全体を把握できないからです。人員目標だけでは、退職者の人数は分からなく、社内異動の全体像を把握できません。こうした状況把握の不足により、人事部門や採用部門が提供する数字に現実とのギャップが生じ、どこの数字が正しいのかを見極めるために多くの労力が無駄に費やされてしまうのです。
人員目標に関連する活動や要因をすべて 1 箇所にまとめ、財務、人事、そしてビジネス チームの関係者の間で認識を合わせるには、どうしたら良いでしょうか。各チームが人員目標の達成に向けて力を合わせる方法はないのでしょうか。
人員の減少や異動の全体像
財務部門にとって重要な数字は、人員数と人件費です。財務部門は、財政的な影響、そして募集中のポジション数や人員数について自分たちが認識している数字が正しいかどうかを知りたいと考えています。人員削減計画や予測にあたり、財務部門はそこまで詳細なデータは必要としておらず、一般的には、一人当たりの人件費を使用して大まかな計算を行います。
財務部門によるトップダウン型のプランニングと目標設定
人事部門が財務部門のパートナーと連携する際には、多くの場合、最終的な予測値や人員増加数の議論から始めます。「トップダウンの計画」の段階において、人事目線から重要なことは、組織の現状における空きポジションと人員ニーズを理解することであり、それらを地域、レベル、役職別に把握することです。この情報の基礎は、財務部門が作成する人件費モデルから導き出されます。採用予定および退職予定の人数を抽出し、それを財務予測データと組み合わせ、その情報を基にどのポジションが空くかを予想します。
トップダウン型の人員計画
企業が人員数の増減を見込んでいない場合や、財務部門が低成長 (数人のみの人員増) を見込んでいる場合であっても、人事部門では、退職や社内異動などの動きに対応するために複数回の採用が必要になる可能性があります。特に、小売業やコール センター、コンタクト センター管理など、離職率の高い業界の大企業では、その傾向が高くなります。
したがって人事部門では、リアル タイムで更新されるダッシュボードを利用して、離職率、退職者数、異動、昇進など、人員増減の全体像に関わるデータを基に役職ごとの人材の動きを確認、理解できることが極めて重要になります。また、異動による特定のポジションの人数の増減や、ポジション内での異動、社内採用と社外採用の割合、部門や地域間を誰が移動し、誰が退職したのか、また社内の異動傾向などのデータを組み込めれば、このダッシュボードはさらに有益になります。さらに目的や利用者に応じて、ビジネス ユニット単位や全社レベル、又はその中間の単位で、インサイトを簡単に生成できる機能も必要です。
人員削減数の予測を人員計画に組み込む
人員削減数の予測においては、過去のデータが非常に有効です。前年のデータを振り返るだけでも、特定のポジションや役職における実際の離職率や退職数をより適切に理解できます。外部の人材市場データ (ベンチマークであれ、求人率や競合の採用活動など退職を誘発する要素であれ) を組み込めば、さらに深く信頼性の高い分析が可能になります。こうした情報を入手できれば、人事部門は、より合理的かつ包括的な説明が可能になり、財務部門やビジネスの関係者も、採用人数の増加に繋がる要因を理解したうえで、必要な人員数のギャップを埋めるために先手を打って動く方法を議論できます。
ポジションを仕事内容やスキルごとに分類し、カテゴリー化できる機能も、人事および人材チームにとって大きな強みとなります。募集したポジションに最適な人材ではない候補者でも、他のポジションの視点では、そこに必要な複数のスキルを持ち合わせているかもしれません。ある役職では「銀メダル」だった候補者を、そのスキルに合った別の役職の候補者としてすぐに紹介できたとしたら、どうでしょう。その人材を見つけるための面接や募集にかかる時間を節約でき、採用活動の効率性を大幅に改善できるうえ、さらなる活躍が望めるのであれば、その「銀メダリスト」にも喜んでもらえるでしょう。
異動、採用期間、退職率のデータが分かりやすくなれば、人事および人材チームは人員計画を効果的に実施でき、それまで古いレポートで何とかやりくりしていた体制から、個々のリーダーのニーズに合わせた動的なインサイトを提供する組織へと進化できます。人事および人材チームは、さまざま要因を考慮した人員数の予測を行い、特定の事業部門に特化したデータを迅速に作成できます。その結果、人材部門の VP やビジネス リーダーは、予定される人員の増加、あるいは一定の人員数が維持されるかという見通しに留まらない、有益なアドバイスを受けられるようになります。また、リーダー陣は退職や異動の傾向に関するインサイトを獲得し、人員数の目標を達成するためにチームに求められる取り組みの程度を把握できます。
人材獲得のボトルネックを取り除く
必要な人員数や、人材に求めるスキル、必要なポジション、そして採用のための予算を把握することは非常に重要です。しかし、採用計画を実行する人がいなければ、そうした情報も活用できません。
あるポジションにおける人員の異動は、企業の組織とリソースの両方に影響を及ぼします。人事チームや人材チームは、リクルート活動で採用できる人数を理解しつつ、予算と予測される人員ニーズとのバランスを取り、入社および退職だけでなく、組織内の異動に関する状況も追跡し、管理していく必要があります。
たとえば、FP&A チームから人員数の予測を受け取ったとします。その予測を基に特定の期間に実施すべき必要事項を導き出せば、それらの必要事項とリクルート活動で採用できる人数とを照らし合わせてそれらを一致させていくことができます。このように集めたインサイトを活用することで、潜在的な人材ニーズを簡単に特定できるようになり、組織がソリューション案を検討するための下地を提供できます。そうすれば、採用能力を超える人員数の確保が必要になる場合にも、組織はその課題を前もって把握できます。たとえば、ある期間内に 5,000 人を採用することが目標なのにもかかわらず現状の採用能力でまかなえる採用人数が 1,500 人程度だとした場合、アラートが出されることになります。これにより、組織は採用担当者を追加で雇用または契約して、採用活動の準備を整えられるようになります。
そのためには、人事部門におけるスタッフィング、人材獲得、オンボーディング チームの現状のキャパシティを可視化し、予測された空きポジションに対処しうる余裕があるか明らかにする必要があります。こうしたインサイトを獲得することで、人員ニーズや予測データを基に、採用チームの調整や追加雇用が必要かどうかを確認し、採用計画に反映させることができます。
予算をベースにした空きポジション。同一ソースからデータを引き出し、そのデータを人事チームの現状と組み合わせる
採用チームのキャパシティをシミュレーションしたり調整したりするうえでは、シナリオ計画が極めて重要になります。特に、募集ポジションに特別なスキルが求められる場合や、大量の新規採用が必要になる場合は、その重要性がさらに増します。一定の期間内に 1 人の採用担当者が対処できる空きポジション数や、採用完了までにかかる平均期間を予測できれば、優先的に採用するべき役職タイプ、雇用または契約する採用担当者の人数、さらには臨時採用や派遣スタッフの活用による一時的な人材確保の機会などを天秤にかけて、適切な妥協点を見つけられます。
これらが、採用チームのキャパシティを理解し、判断する際の二つの要素です。どの業界でも、どの採用チームでも、それぞれに適したモデルを柔軟に作成する必要があります。そのうえで、採用活動に必要なキャパシティに対して実際の人材が余剰しているか不足しているかを把握することで、目標達成の障害となる根本的な問題の特定が可能になります。つまり、採用チームの人材を削減すべきか、あるいは追加すべきかを見極め、ビジネスの目標や目的に沿って採用活動を進めるということです。
人件費計画から、統合されたワークフォース計画へ
財務、人事、ビジネス部門の関係者全員が組織の現状に対して共通の認識をもち、各チームが目標に向かって尽力できる体制を整えられるかどうかが、効果的かつ柔軟なワークフォース計画の鍵です。これを達成するには、従来のサイロ化された二つのプロセスを連携させる必要があります。
統合された継続的なワークフォース計画へ移行
第一のプロセスは、財務、ビジネス、そして人事部門を連動させ、組織の現状や、成長目標および予算に基づくビジネス ニーズの把握をサポートすることです。しかもこれにより、組織に何が起こっていることで人員増の見通しを基に作成した計画以上に人員の需要を増えるのかを、可視化できます。
第二のプロセスは、データ収集の方法を簡略化することです。これにより、人事部門はビジネス ニーズに創造的かつ包括的に対応する時間を確保できます。しかし大半の企業は、組織全体で一貫性をもたせた採用計画を行っていないか、手作業でそれを行っているかのどちらかです。リアル タイムのデータを活用しないプランニングでは、完全に過去の傾向に頼ることとなり、データの質が低い場合にはそれ自体がプランニングの障害となりえます。しかしプランニングを財務組織によるリアル タイムの予測や変更事項と直接結びつけることができれば、人材ニーズを満たすために必要な採用担当者の人数を調整できるため、適切な人材の採用およびオンボーディング活動のボトルネックを取り除けます。
このように、採用の全体像を理解し説明できるような態勢になれば、コネクテッド プランニング (拡張計画および分析、xP&A) というコンセプトの導入による効果も大きくなり、そこに含まれるはワークフォース計画にもプラスとなるでしょう。今や、ワークフォース計画の会議を主導するのは FP&A だけではありません。効果的なプランニングのためには、人事、人材、そしてビジネス部門がそれぞれのデータや視点を持ち寄って財務部門と議論する必要があります。つまり、さまざまなシナリオを評価し、適切な水準の採用能力を確保し、社内の人材の動きを把握することができれば、ワークフォース計画は、ビジネスにもワークフォースにも最適な意思決定を下せる原動力になれるのです。